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最高裁判所第二小法廷 昭和50年(オ)61号 判決 1975年12月26日

三重県多気郡明和町大字大淀乙七三七番地

上告人

合資会社 明造商店

右代表者代表社員

橋爪真次

被上告人

右代表者法務大臣

稲葉修

右指定代理人

平塚慶明

右当事者間の名古屋高等裁判所昭和四九年(ネ)第九号損害賠償請求事件について、同裁判所が昭和四九年一〇月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原判決を正解しないか、原審の認定にそわない事実を主張して、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊 裁判官 本林譲)

(昭和五〇年(オ)第六一号 上告人 合資会社明造商店)

上告人の上告理由

第一点 回答書(甲一号証)に記載の「腐敗品」の昭和二三年度(以下係争年度と云う)における存否の判断につき、原判決は次の通り理由齟齬がある。

一、本訴第一審判決理由二(以下一審理由二、等と略記す)によれば上告人(一審原告)が主張する腐敗品とは係争年度に上告人が作成した、即ち同期に発生した代用醤油モロミ(以下本件モロミ又は腐敗品と云う)を指すものである。又、訴外名古屋国税局協議団津支部が本件審査のための調査をした時(昭和二六年)に現存した腐敗モロミの会計上の処理につき上告人から協議団へ照会した処、「腐敗品については…」との回答(甲一号証)を得たものであることも、原判決が認めて居る。次に甲第二号証によれば、協議団が調査の際、現存した腐敗品と本件モロミとは同一物であることが明示されて居る。そうすると、回答書に記載の腐敗品とは係争年度に発生したものであつて、回答書により同期の棚卸資産(同会計年度末残存品)と認められたことは自明の理である。そうであるのに原判決が回答書は腐敗品(本件モロミ)を係争年度に残存したと云う趣旨のものでない旨(二審理由一)判示したのは間違つて居る。

二、原判決は回答書の文言自体からみて、本件モロミが係争年度当時腐敗して居たことを認めたものでない。(一審理由二)即ち回答書からは本件モロミが係争年度当時にはまだ腐敗していない状態で残存して居たことが窺える判示をして居る。又、原判決は回答書の意味を本件モロミが係争年度に残存していたものであるとの趣旨で回答したものでない、(二審理由一)とも判示したものである。そうすると本件モロミに付き原判決は一方では回答書から残存して居たことが窺える判示をし、他方では回答書は残存して居るとの趣旨のものでないと、全く矛盾した判示をして居るもので、このような原判決は信用出来ない。

第二点 回答書第二項の意義解釈につき原判決は事実誤認に基く理由齟齬がある。

原判決は回答書第二項の意味を、被上告人(一審被告)が「二三年および二四年上期にはいまだ腐敗品が発生しておらず、棚卸資産としての価値を有する状態にあるものとして処理すべきものと認める。」旨主張したとして居る(一審事実・掲示第二、二、(三))との判示につき上告人(二審控訴人)が「発生もしていない本件モロミを棚卸品と認めるのはおかしい。」として控訴した処、被上告人(二審被控訴人)は昭和四九年四月一五日付準備書面二、(四)(以下被上告人書面二、(四)等と略記す)により「被控訴人は本件モロミが係争年度(昭和二三年度)に発生(仕込)したものでないと主張したことはない」旨陳述したのである。従つて右「腐敗品が発生して居ない」との原判示は右被上告人の主張を誤認したものである。そして被上告人も回答書の意味を「本件モロミは二三年及び二四年上期にはいまだ腐敗は発生しておらずたな卸資産として価値を有する状態にある(即ち残存しているもの)と認め」(被上告人書面二、(四))ている。従つて「回答書の意味は本件モロミは棚卸品として残存して居たと認めている。」(一審事実掲示第二、一、(三))との上告人主張を排斥(二審理由一)した原判決は判断を誤つたと云うべきである。

第三点 原判決は本訴請求原因である「西井協議官は腐敗品(本件モロミ)が係争年度に発生したように虚偽の回答をした。」(一審理由一)とする上告人主張があつたことを認めておきながらこれを採用せず その理由を附けて居ない。

一、右につき、原判決は「そこで以下西井協議官に前記主張のような(本件モロミが係争年度に発生したように虚偽の回答をした)事実があつたか、否かにつき検討する。」(一審理由二)としておきながら 判決理由中何処にも右主張の採否理由が挙示されて居ない。唯「回答書は腐敗品が係争年度に残存したとする趣旨のものでない。」(二審理由一)旨判示して居るけれ共、発生してもその後消滅(売却)すれば残存しないのであるから、残存しないことが必ずしも発生しなかつた理由とはならないものである。従つて右主張採否の理由とはならない。

二、原判決の「回答書の文言自体から見ても、前記協議団津支部において本件モロミが係争年度当時腐敗していたことを認めたものでないことが窺われる。」(一審理由二)との判示は回答書面から係争年度には本件モロミがまだ腐敗していない状態で存在していたことが窺えることを認めたものである。そして存在して居る以上、その発生も認められることは当然である。更に上告理由第一点に述べた通り、原判決自体も本件モロミは係争年度に上告人が作成したものであると、その発生を認めて居る。そうであるから本件モロミが係争年度に発生したと理解出来るものであるとする上告人の主張を採用しなければならないのに、その採否を明示しなかつた原判決は審理不尽、理由不備のそしりを免れない。

第四点 回答書の成立事情から、回答書の意味内容に関する上告人主張を排斥した(一審理由二及び二審理由一)原判決には左記の通り理由齟齬がある。

一、「西井協議官は腐敗品(本件モロミ)が係争年度に発生しなかつたことを前提として回答をした。」(一審理由二)として「そうだとすると、回答書は腐敗品が係争年度において残存して居た趣旨で回答したものでない。」(二審理由一)旨の原判示は、必ずしも当を得たものでない。何となれば、回答書が右前提を忠実に伝えたとする保証もなく、或は、回答者の故意過失によつて右前提に従つたとは限らないのである。そして本件の場合、事実はむしろ右前提とは逆の回答がなされたのである。即ち甲第五号証(二七、三二、七二、)によれば、回答書第二項に「腐敗品があつたとしたら」と記載すべき処を、「腐敗品については」と間違つて記載したことが明白である。回答書に若し、ほんとうは存在を認めて居ないが「腐敗品があつたとしたら」棚卸品と認めると、記載してあれば或は原判示の如く理解出来ないでもないが、現実には「本件モロミについては棚卸品と認める。」旨記載してあるから。本件モロミが存在してこれを棚卸品と認めたと理解するのが当然である。

二、原判決は協議団が「腐敗品については二三年及び二四年上期においては棚卸資産として処理すべきものと認めます。」と回答したことは当事者間に争いがないので、右回答書を出した経緯から検討する(一審理由二)としておきながら、回答書の成立に関し左記の点について、少しも考慮しなかつた原判決には審理不尽、判断遺脱がある。

上司の監督を逃れて独断で回答したことが違法であることすら気付かない程初心者である西井協議官(一審理由三)には協議団議決事項を完全に伝えることも期待出来ず、更にその上、右一に述べた通り間違つた回答をした点につき考慮しなかつた原判決は判断を誤つたものである。

三、以上要するに、上告人としては回答書の成立事情は察知出来ないのであつて、唯、被上告人もその成立を認めた回答書をその文言通り協議団の見解であると信用したもので、その回答書には本件モロミを係争年度の棚卸資産(期中に発生し同期末に残存した品)と認める旨記載してあるから、その通り理解したのである。右のように回答書の内容如何が問題であるのに原判決はその成立事情を云々して、その内容についての審理判断を怠つたもので不当である。

第五点 回答書の意味を本件モロミは係争年度においては棚卸品として残存しているとの趣旨である、とした上告人の主張を排斥した(二審理由一)原判決は左記の通り違法な点及び理由齟齬の点がある。

一、回答書に記載の腐敗品(本件モロミ)が係争年度の棚卸品と認められ、更にその翌期である昭和二四年上期にも棚卸品と認められたことは回答書が明示する処である。従つて回答書が本件モロミを係争年度末に残存して翌期に繰り越したことを示すものであることは争う余地がない。そうであるのに回答書の意味は本件モロミが係争年度に残存して居たとする上告人の主張を排斥した原判決は正しくない。

二、本件モロミが係争年度に残存して居ないとするためには、本件モロミが発生しなかつたとするか、或は、発生しても販売等の事情により消滅したか以外に考えられない。そこで発生しなかつたする点については前述(第三点)の通り発生しなかつたとは出来ないものである。次に消滅したとする点については原判示中何処にもその理由が見当らない。それのみか、回答書は本件モロミを翌期の棚卸品と認めて居るのであるから係争年度に消滅したとは云えないのである。従つて、回答書が本件モロミは係争年度に残存したと認めたものであることは否定出来ないのである。

三、回答書第二項の意味につき上告人は「腐敗品は係争年度においては棚卸資産として残存して居る」(一審事実掲示第二、一、(三))と主張し、被上告人は「本件モロミが係争年度に発生したものでないと主張したことはない。回答書の意味は、二三年及び二四年上期にはいまだ腐敗は発生しておらず、たな卸資産として価値を有する状態にあると認めると理解される。」(被上告人書面二、(四))旨主張して、本件モロミが係争年度に残存して居ないとは云つて居ない。そうであるのに右「回答書は本件モロミが係争年度に残存して居ると認めた趣旨である。」とした上告人主張を排斥した(二審理由一)原判決は当事者が共に云つて居ないことに付き、判断を下したもので違法(民訴法、一八六条)である。

四、回答書第二項の意味につき、訴外名古屋国税局長(協議団の直上級機関)も回答書の成立を認め、腐敗品については二三年二四年上期には価値ある棚卸品と認め、損金算入の時期はそれ以後である。(四九、七、三、上告本人尋問の結果)として、腐敗品が係争年度末に残存して居る趣旨であることを認めて居る。更に又、原判決も「文言自体から見て本件モロミが係争年度に腐敗して居たことを認めたものでない。」(一審理由二)として本件モロミが価値ある状態で存在して居ることが窺える判示をして居る。そうすると右何れの場合(第五点三を含む)でも回答書により本件モロミが係争年度に残存したとは取れても、残存して居ないとは取れないことは明白である。従つて原判決が回答書の意味を本件モロミが係争年度に残存して居ないと解して上告人主張を排斥した(二審理由一)のは間違つて居る。

第六点 回答書の解釈につき原判決は既に確定した別件訴訟の判決(甲二号証)に抵触した理由齟齬がある。

別件訴訟において、訴外名古屋国税局長(同訴訟の被控訴人)が本件モロミは係争年度(同訴訟に云う一年計算期間)内に製造されたものでない。(甲二、被控訴人陳述二)従つて同期に棚卸品として残存していないと云える主張をしたから、上告人(同訴訟の控訴人)が回答書(同訴訟の甲二四号証、本訴甲一号証)をもつて、本件モロミは係争年度に発生し同年度末に残存した棚卸品であると主張立証した処、その通りの判示理由(甲二号証理由二、(四))に基く判決が確定したのである。そうすると、回答書は本件モロミが係争年度に残存して居るとの趣旨のものでない(二審理由一)とした原判決は間違つて居る。

第七点 西井協議官が回答書を不法に作成した事実に徴し、回答書に不法ないし、不当な記載がないとした(一審理由三、及び二審理由二)原判決には理由齟齬がある。

一、審査決定の事情につき協議団が納税者に直接回答することは一般にあり得ないことであるのに、西井協議官が不法な手続によつて敢えて回答したことは原判決も認めた(一審理由三)処である。そして原判決は右事実に徴すれば西井協議官が回答書は(二審理由二)不法ないし不当にわたることを記載したものでない。(一審理由三)と判示をして居るけれ共、西井協議官が不法に回答したことがその回答書に不法、不当にわたる記載が絶対にないとする根拠とならないのは勿論、不法に成立したものであるからこそ、その内容も不法ないし、不備不当にわたる可能性も考えられるものである。従つて原判決がこの点について審理判断を欠くものである。

二、協議団が本件モロミを係争年度に発生したものとは認めて居なかつた(一審事実掲示第二、二、(四))ことは被上告人も認めた処である。そうであるのに回答書には本件モロミを係争年度の棚卸資産(同期中に発生して同期末に残存して居た品物)と認める旨記載してある。これは協議団が認めても居ないことを回答書では認める旨回答をしたもので不法ないし不当にわたる記載である云うべきである。従つて回答書に不法、不当な記載なしと断じた原判決は間違つて居る。

第八点 以上により、回答書が本件モロミを係争年度に残存して居たとする趣旨で回答したものでないとする原判決は正しくないのである。又、この点に関連した爾余の判示理由も当然誤つたこととなる。依つてかゝる判示理由に基く原判決は破棄されて当然である。

第九点 原判決は左記の通り判決に影響すること明かな理由齟齬がある。

一、(1) 甲第五号証によると、協議団は係争年度に本件モロミが生じたことの確認が出来なかつた(一審理由二)旨の原判示に従えば協議団は本件モロミが何年に発生したか判らないのであつて、係争年度迄には発生して居なかつたとは認めて居ないのである。

(2) 甲第六号証(三枚目裏、末尾)によると「現存の腐敗モロミが期首引きつぎ当時においてすでに全部腐敗に帰すべきこと明かな状態にあつたということは本件において当事者間に争いがある。」と判示をして、訴外名古屋国税局長(甲第五号証の証言をした真弓金二郎は同局長の訴訟代理人であつた)が本件モロミは係争年度期首において既に腐敗の運命にあつたと主張して応訴抗争したことは明かである。そうすると、協議団の課税処理上のすべてを知悉して居る国税局長が本件モロミは係争年度期首において既にその存在を認めたものである。従つて本件モロミは係争年度前から引きつがれて、昭和二六年協議団調査時迄存在して居たことは協議団も認めて居たとするのが相当である。

(3) 右(1)(2)の事情から考えると、協議団が本件モロミは係争年度に残存して居たと認めたものであるとは考えられても、残存して居なかつたと認めたとは考えられないものである。従つて、原判決が西井協議官は本件モロミを係争年度においてはまだ発生しなかつた(即ち発生は昭和二四年以後である。)ことを前提として回答したものと認めるが相当である。(一審理由二)と判示しても、本件モロミは係争年度には既に残存して居たと協議団が認めていたのであるから、右原判決の推論は正しいとは云えないものである。

二、そうすると、右述の通り協議団は本件モロミを係争年度に残存して居ると認めて居たのであるから、原判決が回答書は本件モロミが係争年度に残存して居るとの趣旨で回答したものでない(二審理由一)と判示したのは間違つて居る。

従つて右に関する上告人の主張を排斥した(二審理由一)原判決は不正、不当である。

以上

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